日中両国語における「配慮表現」について -緩和表現を中心に-
碩士 === 長榮大學 === 日本研究所碩士班 === 93 === 日中両国語における「配慮表現」について ─ 緩和表現を中心に─ 林 由紀恵 要旨 日本語は非常に豊かな「配慮表現」を持つ言語である。「配慮表現」とは対人配慮のための言語表現上の工夫であり、聞き手に対する配慮、思いやりの気持ちを表す手段である。「配慮表現」は日常の会話の至るところで見受けられる。日本人は、自分と他者との良好な人間関係を築くために、またこれを持続させるために「配慮表現」を駆使しながら意思の伝達を行っている。日本語において敬語が重要であることは勿論であるが、「配慮表現」もまた非常に重要な待遇表現の要素...
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2005
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ndltd-TW-093CJU000780042015-10-13T13:04:19Z http://ndltd.ncl.edu.tw/handle/71932092774563416358 日中両国語における「配慮表現」について -緩和表現を中心に- 關於日中兩語「配慮表現」的研究-以緩和表現為主- Yukie Hayashi 林由紀惠 碩士 長榮大學 日本研究所碩士班 93 日中両国語における「配慮表現」について ─ 緩和表現を中心に─ 林 由紀恵 要旨 日本語は非常に豊かな「配慮表現」を持つ言語である。「配慮表現」とは対人配慮のための言語表現上の工夫であり、聞き手に対する配慮、思いやりの気持ちを表す手段である。「配慮表現」は日常の会話の至るところで見受けられる。日本人は、自分と他者との良好な人間関係を築くために、またこれを持続させるために「配慮表現」を駆使しながら意思の伝達を行っている。日本語において敬語が重要であることは勿論であるが、「配慮表現」もまた非常に重要な待遇表現の要素である。「配慮表現」は日本語の大きな特長の一つであり、これを理解することはそのまま日本人と日本人社会への理解にも繋がると言ってよい。 日本語を学習する外国人学習者はきっと、日本語を深く学べば学ぶほどその「配慮表現」の多さ、複雑さに気づくことだろう。「配慮表現」はおよそ世界中のどの言語にも見られるものであるが、各々の国における異なる文化背景が、異なる「配慮表現」を生み出しているため、外国人学習者にとって、「配慮表現」の習得は決して容易ではない。しかし、「配慮表現」の習得なしに本当の意味での日本語の習得は有り得ない。学習者が目指す「自然な日本語」の習得には、当然「配慮表現」の習得も含まれるはずである。 これにもかかわらず、従来の日本語教育では「配慮表現」の教授ということがあまり重要視されていなかったようである。「配慮表現」ということば自体、研究者の間に知られるようになってからまだ10年にも満たない。待遇表現における「敬語表現」の研究の歴史は古いが、「配慮表現」に関しての研究はまだ始まったばかりと言える。 「配慮表現」の教授について、日本語教育の現場でどのようにこれを実践していくか、ということをもっと考えねばならないと思う。実際、学習者に日本への留学経験がなかったり、日本人との交流を持つ機会がないために「配慮表現」の必要性を認識できなかったり、あるいは反対に「配慮表現」を学びたくてもその機会が少なく学習に支障を来す、というのでは学習者にとって甚だ不利である。これは日本語教育において考慮されるべき問題であるといえる。 本論は日本語と中国語における「配慮表現」を比較し、日本語教育に資するところを探ろうとするものである。先ず、第一章において、「配慮表現」と「敬語表現」の違いについて述べ、また従来の「待遇表現」の中で「配慮表現」がどのように位置づけられるのかについて説明した。第二章では日本語における「配慮表現」の四大領域の一つである「緩和表現」を中心に、具体例を挙げながら考察を行った。「緩和表現」は「配慮表現」の中でも主軸を成す最も重要な領域であり、日本語教育において活用すべき部分である。日本語の「配慮表現」については彭2004の選考研究の分類に従って、「依頼」「断り」「判断」の各表現における「緩和表現」の実際の表れ方を考察した。 第三章では中国語の、「依頼」「断り」「断定」表現における「緩和表現」の表れ方について考察を行った。台湾人200人に対して行ったアンケート調査の結果をもとに、中国語における「緩和表現」の様相を明らかにした上で、日本語の「配慮表現」との差異について考えてみた。 以上の考察から得られた結論は、中国語においても「緩和表現」と見なせる技法が存在し、①表現形式や用語の変更(場面的表現変更)②場面的添加③場面的省略(客観的な表現、明示回避など)の三つの技法は中国語においても応用できることが分かった。しかしながら、勿論、日本語と中国語では文法構造が根本的に違っているため、日本語における「緩和表現」の三つの技法に下位する多くのパターンをそのまま中国語に置き換えることはおよそ不可能である。また口語に限定するならば、中国語の「配慮表現」は量・種類の上で日本語のそれを大きく下回ることは明らかである。 以上の結果を踏まえて、日本語教育における「配慮表現」の教授法に対して提言することは、日本語の授業で「配慮表現」を教授する場合、教師が学習者に対して「配慮表現」と見なされる文の意味を説明するだけでなく、「配慮表現」の概念や用法を日中両国語で照らし合わせて授業で活用することの必要性である。例えば、「依頼」表現を教えるにあたり、教師は授業で「依頼」表現の文型を学習者に教えるのであるが、日本語には様々な「依頼」表現があることを学習者に説明した方がよい。そして、なぜそのように様々な表現形式があるのかを中国語の「依頼」表現と併せて説明すれば、学習者の日本語の「配慮表現」への理解に役立つと思われる。その表現を使って、聞き手に対しどのような配慮を表すのか、また母国語とはどのような差異があるのかを学習者に認識させることが、「配慮表現」教育の第一歩ではないかと思われる。 現在台湾で使用されている一般的な日本語の教科書には、「配慮表現」について体系的に説明しているものは特に見受けられないが、市販されている日本語学習のための書籍には、様々な場面における「配慮表現」を豊富な用例を挙げて紹介しているものはある。しかしながら、こういった教材は通常日本語の授業でメインの教材として使われることはなく、その存在を知っている人だけが使っているのが実情である。 これまでの日本語における「配慮表現」研究の成果を日本語教育の中で生かしていくためには、関連する研究の更なる発展が望まれる。「配慮表現」の教授法や教材の開発は、筆者自身にとってもこれから取り組んでいきたい大きな課題である。 キーワード:配慮表現 緩和表現の三技法 日本語教育における配慮表現の教授 Hsieh Yih Lang Masako Moriyasu 謝 逸朗 森安 雅子 2005 學位論文 ; thesis 90 |
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碩士 === 長榮大學 === 日本研究所碩士班 === 93 === 日中両国語における「配慮表現」について
─ 緩和表現を中心に─
林 由紀恵
要旨
日本語は非常に豊かな「配慮表現」を持つ言語である。「配慮表現」とは対人配慮のための言語表現上の工夫であり、聞き手に対する配慮、思いやりの気持ちを表す手段である。「配慮表現」は日常の会話の至るところで見受けられる。日本人は、自分と他者との良好な人間関係を築くために、またこれを持続させるために「配慮表現」を駆使しながら意思の伝達を行っている。日本語において敬語が重要であることは勿論であるが、「配慮表現」もまた非常に重要な待遇表現の要素である。「配慮表現」は日本語の大きな特長の一つであり、これを理解することはそのまま日本人と日本人社会への理解にも繋がると言ってよい。
日本語を学習する外国人学習者はきっと、日本語を深く学べば学ぶほどその「配慮表現」の多さ、複雑さに気づくことだろう。「配慮表現」はおよそ世界中のどの言語にも見られるものであるが、各々の国における異なる文化背景が、異なる「配慮表現」を生み出しているため、外国人学習者にとって、「配慮表現」の習得は決して容易ではない。しかし、「配慮表現」の習得なしに本当の意味での日本語の習得は有り得ない。学習者が目指す「自然な日本語」の習得には、当然「配慮表現」の習得も含まれるはずである。
これにもかかわらず、従来の日本語教育では「配慮表現」の教授ということがあまり重要視されていなかったようである。「配慮表現」ということば自体、研究者の間に知られるようになってからまだ10年にも満たない。待遇表現における「敬語表現」の研究の歴史は古いが、「配慮表現」に関しての研究はまだ始まったばかりと言える。
「配慮表現」の教授について、日本語教育の現場でどのようにこれを実践していくか、ということをもっと考えねばならないと思う。実際、学習者に日本への留学経験がなかったり、日本人との交流を持つ機会がないために「配慮表現」の必要性を認識できなかったり、あるいは反対に「配慮表現」を学びたくてもその機会が少なく学習に支障を来す、というのでは学習者にとって甚だ不利である。これは日本語教育において考慮されるべき問題であるといえる。
本論は日本語と中国語における「配慮表現」を比較し、日本語教育に資するところを探ろうとするものである。先ず、第一章において、「配慮表現」と「敬語表現」の違いについて述べ、また従来の「待遇表現」の中で「配慮表現」がどのように位置づけられるのかについて説明した。第二章では日本語における「配慮表現」の四大領域の一つである「緩和表現」を中心に、具体例を挙げながら考察を行った。「緩和表現」は「配慮表現」の中でも主軸を成す最も重要な領域であり、日本語教育において活用すべき部分である。日本語の「配慮表現」については彭2004の選考研究の分類に従って、「依頼」「断り」「判断」の各表現における「緩和表現」の実際の表れ方を考察した。
第三章では中国語の、「依頼」「断り」「断定」表現における「緩和表現」の表れ方について考察を行った。台湾人200人に対して行ったアンケート調査の結果をもとに、中国語における「緩和表現」の様相を明らかにした上で、日本語の「配慮表現」との差異について考えてみた。
以上の考察から得られた結論は、中国語においても「緩和表現」と見なせる技法が存在し、①表現形式や用語の変更(場面的表現変更)②場面的添加③場面的省略(客観的な表現、明示回避など)の三つの技法は中国語においても応用できることが分かった。しかしながら、勿論、日本語と中国語では文法構造が根本的に違っているため、日本語における「緩和表現」の三つの技法に下位する多くのパターンをそのまま中国語に置き換えることはおよそ不可能である。また口語に限定するならば、中国語の「配慮表現」は量・種類の上で日本語のそれを大きく下回ることは明らかである。
以上の結果を踏まえて、日本語教育における「配慮表現」の教授法に対して提言することは、日本語の授業で「配慮表現」を教授する場合、教師が学習者に対して「配慮表現」と見なされる文の意味を説明するだけでなく、「配慮表現」の概念や用法を日中両国語で照らし合わせて授業で活用することの必要性である。例えば、「依頼」表現を教えるにあたり、教師は授業で「依頼」表現の文型を学習者に教えるのであるが、日本語には様々な「依頼」表現があることを学習者に説明した方がよい。そして、なぜそのように様々な表現形式があるのかを中国語の「依頼」表現と併せて説明すれば、学習者の日本語の「配慮表現」への理解に役立つと思われる。その表現を使って、聞き手に対しどのような配慮を表すのか、また母国語とはどのような差異があるのかを学習者に認識させることが、「配慮表現」教育の第一歩ではないかと思われる。
現在台湾で使用されている一般的な日本語の教科書には、「配慮表現」について体系的に説明しているものは特に見受けられないが、市販されている日本語学習のための書籍には、様々な場面における「配慮表現」を豊富な用例を挙げて紹介しているものはある。しかしながら、こういった教材は通常日本語の授業でメインの教材として使われることはなく、その存在を知っている人だけが使っているのが実情である。
これまでの日本語における「配慮表現」研究の成果を日本語教育の中で生かしていくためには、関連する研究の更なる発展が望まれる。「配慮表現」の教授法や教材の開発は、筆者自身にとってもこれから取り組んでいきたい大きな課題である。
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